賃金引下げ(賃下げ)――陥りやすい対応と正しい解決法・予防法
最終更新日 2024年8月28日
企業の業績不良により、労働者の賃金をカットしたい。
このようなお悩みを抱える企業も多いかと思われます。
企業の経費において、人件費はそれなりの割合を占めるものですので、労働者の賃下げは、企業にとっても切実な問題です。
しかしこの賃下げ、企業にとってはかなり厳しい問題です。
陥りやすい対応
企業側が一方的に賃金を引き下げたり、企業の息のかかった労働者を労働者代表と設定して就業規則を変更してしまったりするケースがあります。
しかし、このような対応は危険です。
なぜなら、労働者の同意なく一方的に行われた賃金引下げは無効となり、労働者から従来通りの労働条件に基づく契約内容の履行を求められるおそれがあるからです。
さらに、切り下げ前の賃金と、切り下げ後の賃金との差額を請求され、一度に多額の賃金を支払わなければならない事態に陥ってしまうおそれもあります。
正しい解決法・予防法
賃金引下げの方法としては、個人の同意による変更、労働協約の締結、就業規則の変更、などの方法が考えられます。
個人の同意による変更
労働条件は、労働者と企業の合意に基づくものですから、労働者が自由な意思に基づいて変更に同意するのであれば、変更が認められます。
自由な意思と認められるかどうかの判断は、変更により労働者にもたらされる不利益の内容及び程度、労働者により当該行為がされるに至った経緯及びその態様、当該行為に先立つ労働者への情報提供又は説明の態様等などに照らして行うべきものとされます(最判平成28年2月19日)。
したがって、企業としては、後々労働者から争われないよう、賃下げによる不利益の内容や賃下げの必要性などを労働者に説明した上で、合意を求める必要があります。
ただ、賃金引下げは、労働者にとって不利益な条件変更ですから、合意が得られる可能性は低いかもしれません。
労働協約の締結
企業と労働組合が労働協約を締結することにより、労働条件を変更することができます。
ただ、これも労働組合にとって不利益な変更となりますので、合意を得ることは難しいでしょう。
就業規則の変更
就業規則の変更によって賃金引下げをすることができます。
ただし、これは就業規則の不利益変更にあたるため、
- 労働者への周知、
- 変更の合理性、の要件を満たす必要があります。
②変更の合理性は、就業規則の変更が、
ⅰ)労働者の受ける不利益の程度、
ⅱ)労働条件の変更の必要性、
ⅲ)変更後の就業規則の内容の相当性、
ⅳ)労働組合等との交渉の状況、
ⅴ)その他の就業規則の変更に係る事情に照らして合理的なものであるか、
といった要素を総合考慮して判断されます(労契法10条)。
特に、賃金引下げの場合、労働者の受ける不利益の程度が大きいため、労働条件の変更の必要性は高度なものが要求されています(最判平成9年2月28日)。
たとえば、企業の存続自体が危ぶまれる場合や、経営危機による雇用調整が予想される場合には、高度の必要性は認められやすいといえるでしょう。
このように、賃金の引下げは、いずれの方法によっても厳しいハードルをクリアする必要があり、大変難しい問題です。具体的方法や見通しについては、労務に詳しい弁護士への相談をおすすめします。