就業規則の不備は高くつきます!【経営者向け】
最終更新日 2024年8月28日
今回は、皆様からよく質問に上がる就業規則について
お役立ち情報を提供します。
ところで、みなさんの会社には就業規則がありますか?
「もちろんあるよ。会社を作ったころ、ネット上に出回っていたヒナ形を使ったんだけどね・・」
そのような声が聞こえてきそうです。
ですが、ヒナ形の使用は、労務・会社法務の観点からは、相当危ないと言わざるをえません。
「社員が少ないからまだ就業規則は作っていないよ」
それではいつ労働問題が起こってもおかしくありません。
というのも、就業規則は、会社の形式的な定款や登記と異なり、適当に定めると、従業員との労働トラブルを起こしやすくなったり、労働トラブルを増幅させたりしてしまうからです。
就業規則とは、労働者が就業上遵守すべき規律及び労働条件について定められた規則をいいます。
そして、常時10人以上の従業員を使用する使用者は、就業規則を作成し、所轄の労働基準監督署長に届け出なければならないとされています。
このように、形式的に必要なだけのように見える就業規則ですが、
これを巡る労働トラブル事例はとても多いです。
当事務所の最近の事例では、ある会社が就業規則を変更して退職金をカットした後、退職した従業員がユニオンに駆け込んだというものがあります。
その会社では、業界のヒナ形をもとに就業規則を定めましたが、最終給与と勤続年数をもとに退職金が支払われることになっていました。
ところが、退職金支払に備えた積立てはないまま、数年前に、形式的な手続きだけで就業規則を変更し、退職金をカットしてしまいました。
その後、同社を退職した従業員が退職時のいきさつに不満を覚えてユニオンに駆け込み、団体交渉でいよいよ就業規則の不利益変更を争われそうになったのです。
厳しいケースでしたが、すんでのところで上手に和解し、火消しに成功しました。
ですが、本格的に争われると、諸々合わせ1000万円を超える支払が必要でした。
こうした事態になったのも、もとはといえば、就業規則のヒナ形をほぼそのままに自社の就業規則にしたことに原因があります。
その結果、後日、会社の実情に合わせて就業規則を変更せざるをえなくなり、従業員退職の際、その変更の効力を争われる危険にさらされてしまったのです。
このように、就業規則は、定め方によっては、会社の労務問題の温床になり、会社の存続をも左右しかねない重要なものなのです。
では、御社が就業規則で痛い目に遭わないようにするには、どのような点に注意すればいいでしょうか?
(1)就業規則がない会社は就業規則を定める
就業規則を定めないという選択は、最悪の事態を生みやすいといえます。
なぜなら、従業員との労務問題が生じた際、紛争解決の具体的なよりどころが全くないからです。
ですので、就業規則がない会社は、まず就業規則を定めるとの決断をすることが大切です。
(2)ヒナ形を漫然と使わない
就業規則は、たいてい、会社を興したばかりで忙しい時に、とりいそぎ業界やネット上のヒナ形をそのまま使ってしまうものです。
ですが、そのような安易な定め方をすると、後日大変な目に遭うというのは、すでにお伝えしたとおりです。
なので、就業規則は、初めて作成するときこそ、十分吟味する必要があるのです。
また、すでに就業規則がある会社も、労務トラブルが発生する前に、
既存の就業規則を十分吟味して、適正な内容に修正しましょう。
ただし、すでにお伝えした例からわかるとおり、後日不利益変更を争われない工夫が必要です。
(3)作成や変更の際、労務に強い弁護士にチェックしてもらう
就業規則が最終的に争われるのは、労働審判や訴訟の場面です。
そして、労働審判や訴訟を業として代理できるのは弁護士だけです。
そこで、就業規則の作成・変更する際は、必ず労務に強い弁護士に相談し、チェックを受けましょう。
また、その時々の会社の実情に合わせ、就業規則を変更することもあると思います。
そうした就業規則の変更の際も、必ず労務に強い弁護士に相談してチェックを受けましょう。
ちなみに、社労士さんに就業規則を作ってもらうこともあるかと思います。
社労士さんは、労務の手続に関するプロですので、
依頼があれば、就業規則をひととおり作っていただけることでしょう。
当事務所も、会社のご希望があれば、社労士さんをご紹介し、
就業規則を作っていただくことがあります。
ただ、そのままでは、労働審判や訴訟での争われ方を意識した就業規則となっている例は多くないようです。
よくあるのは、就業規則が会社側に立ちすぎている例です。
おそらく、従業員に厳しい就業規則にしておけば従業員が会社に逆らいにくくなるとの考慮が働いたのでしょう。
あるいは、会社側の要望を盛り込んでいくうちに、
従業員に厳しい就業規則になったものと思われます。
しかし、このような従業員に厳しい就業規則を定めると、
かえって、ふだんからの従業員との信頼関係に水を差したり、
労働審判や訴訟の際に無効とされたりするおそれがあります。
ですので、社労士さんに作ってもらった就業規則案であっても、
正式に作成・変更する前に、必ず労務に強い弁護士のチェックを受けましょう。