定年後再雇用の落とし穴をご存知ですか?【経営者向け】
最終更新日 2024年8月28日
経営者の皆さん、「定年後再雇用制度」については、もちろんご存知ですよね?
定年後再雇用制度とは、定年が60歳未満の事業主が希望者全員を65歳までを継続雇用する制度の1つであり、高年齢者雇用安定法により認められています。
そして、たいていの会社は、正社員が60歳の定年を迎えると、その後1年契約の更新を繰り返し、65歳まで雇っていることと思います。
ところが、当事務所が経営者のご相談を受けていると、定年後再雇用が絡む労務問題が多いにもかかわらず、経営者の皆さんの定年後再雇用に対する関心が総じて低いことに気づきました。
定年後再雇用が絡む労務問題とは、以下のようなものです(どれも当事務所が過去に受けたご相談です。)。
・定年後再雇用の従業員が、わがもの顔で職場に居座り、年下の上司の指示に従わず、仕事もしない・・
・定年後再雇用した従業員が、だんだん働けなくなってきたので、63歳の更新時に賃金を減額したところ、減額は無効と争われた・・
・定年後再雇用した従業員に、65歳以降もそのまま働いてもらっていたが、さすがにしんどそうなので、本人も納得のうえ退職してもらったところ、後日、不当解雇と争われた・・
こうしたご相談は、御社にも心当りはありませんか?
そこで、今回は、定年後再雇用制度の落とし穴について、Q&A形式でお伝えしたいと思います。
Q 定年後再雇用した従業員の勤務態度が悪いので、例えば63歳の更新時に契約を更新しないことはできるでしょうか?
A 意外かもしれませんが、答えは(ほぼ)ノーです。
労働契約法によれば、更新申込みを拒絶することが、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められないときは、使用者は、従前の有期労働契約の内容である労働条件と同一の労働条件で当該申込みを承諾したものとみなされます。
平たく言えば、よほどのことがない限り、従業員が望むと契約が更新されてしまうのです。
今回のケースに付いて考えると、「勤務態度が悪い」と一口に言っても、単に仕事が遅い、私語が多いといったレベルから、勤務放棄に近いものまで、程度がさまざまです。
ただ、私語が多い、口答えする、休みがちであるといった程度では「よほどの事情」が認められず、更新を拒否できないでしょう。
Q 定年後再雇用なので、給与を現役時代の半額にすることはできるでしょうか?
A これも、答えは(ほぼ)ノーです。
労働契約法によれば、有期労働者の労働条件が、期間の定めがあることにより、無期労働者の労働条件と相違する場合、労働条件の相違は、労働者の職務の内容、その他の事情を考慮して、不合理と認められるものであってはならないとされています。
簡単に言えば、期間の有無に関連して生じた労働条件の違いは、不合理であってはならないのです。
そうすると、現役時代と同じ仕事をしていながら、定年後再雇用の給与を現役時代の半額にするというのは、業界にもよりますが、不合理とされる可能性が高いといえます。
この点、近時裁判で争われているところですので、注意しましょう。
Q いわゆる「無期転換ルール」が導入されたそうですが、定年後再雇用は、通常の有期労働契約と異なるので、通算契約期間が5年を超えても、無期契約に転換されずにすむのでしょうか?
A これも、答えは(ほぼ)ノーです。
「無期転換ルール」とは、有期の労働契約の通算契約期間が5年を超える労働者が、使用者に対し、無期の労働契約締結の申込みをしたときは、使用者は申込みを承諾したものとみなすというもので、労働契約法に定められています。
要するに、労働契約の更新を重ね、通算5年を超えると、労働者の一存により、無期の労働契約に転換されてしまうのです。
しかし、定年後再雇用制度でもこれを貫くと、65歳で辞めてもらいにくくなりますので、一応特例が設けられています。
ただ、そうした特例は、雇用管理計画について厚労大臣から認定を受けない限り認められないので、注意が必要です。
いかがでしたか?
定年後再雇用について軽く考えていると、従業員に争われ、痛い目に遭うかもしれません。
また、定年後再雇用の従業員は、会社の大先輩のため、誰も鈴をつけることができず、野放しにされがちであり、パワハラの温床になる場合があります。
そこで、定年後再雇用の従業員のことが気になる経営者の皆さんは、早目に労務に強い弁護士に相談し、労務問題の芽を摘みましょう。