定年後再雇用の処遇上の注意点は?――長澤運輸事件東京高裁判決を踏まえて

定年後再雇用の処遇上の注意点は?

最終更新日 2024年8月28日

  • 定年後の労働者を再雇用する場合、期間の定めのある労働契約を締結している。
  • 定年後再雇用の労働者も、職務内容は定年前と同じである。
  • 定年後再雇用の労働者の給与は、定年前より低く設定している。

これら全ての項目に当てはまる企業は、危険です。

なぜなら、労働契約法20条に違反するとして、定年前の労働者と同程度の給与を支払わなければならないおそれがあるからです。

場合によっては、定年後現在に至るまでの期間について、現在の給与と定年前の給与との差額をまとめて支払わねばならず、企業にとって大きなダメージとなります。

では、定年後再雇用の労働者について、どのような点に注意すべきでしょうか。

労働契約法20条について

労働契約法20条は、有期契約労働者と無期契約労働者の間の労働条件の相違が不合理であることを禁止する趣旨の規定です。

そして、相違が不合理か否かについては、

  1. 職務の内容、
  2. 職務の内容及び配置の変更の範囲、
  3. その他の事情、

を考慮して判断すると定められています。

したがって、企業としては、有期契約労働者の労働条件が、無期契約労働者と比べて不合理に低いものといえないか、注意が必要です。

長澤運輸事件東京高裁判決(東京高裁平成28年11月2日)

労契法20条について、近時、新しい裁判例が注目されています。

これは、定年退職後に雇用期間を1年として再雇用された労働者(有期契約労働者)が、定年前の労働者(無期契約労働者)との労働条件の相違が不合理であると主張し、労契法20条や公序違反を理由に無期契約労働者の就業規則の適用を求めた事件です。

主に、

  1. 本件定年後再雇用の労働者について労契法20条が適用されるか否か、及び、
  2. 本件相違が不合理といえるか否か、が争点となりました。

この点について東京高裁は、概要、労契法20条の適用範囲は使用者が「専ら」期間の定めの有無を理由として労働条件の相違を設けた場合に限定する必要はなく、期間の定めの有無に「関連して」生じたものであればよいとしました。

そして、本件相違は期間の定めの有無に関連して生じたものであることから労契法20条の適用があるとしながらも(①)、本件相違は労働者の職務の内容、当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情に照らして不合理なものであるということはできず、労契法20条に違反しないと判断しました(②)。

企業が注意すべき点は?

上記裁判例を踏まえると、定年後再雇用で有期労働契約を締結した労働者についても、労契法20条が適用されることになります。

したがって、右労働者の労働条件を定めるに当たっては、労働者の職務の内容や、職務の内容及び配置の変更の範囲、その他の事情について、無期契約労働者と比べて不合理な相違がないよう配慮する必要があります。

例えば、定年後の職務内容や変更範囲について、定年前よりも負担を軽くすれば、定年後の給与を低く設定しても不合理ではないといえるでしょう。

迷ったら、弁護士に相談を!

このように、定年後再雇用の処遇については注意すべきポイントがあります。具体的な判断に迷ったら、念のために労務に強い弁護士に相談しておくと安心です。

最終更新日 2024年8月28日

この記事の監修者
弁護士・監修者
弁護士法人ひいらぎ法律事務所
代表 社員 弁護士 増田 浩之
開所以来、姫路エリアに密着。使用者側労働問題に注力。経営法曹会議会員。

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