従業員の懲戒処分――陥りがちな対応と正しい対応
最終更新日 2024年8月28日
陥りがちな対応
- 就業規則にはないが、遅刻1回につき罰金1万円というルールを定めている。
- 遅刻・無断欠勤を繰り返す社員をいきなり懲戒解雇した。
このように、従業員の懲戒処分について就業規則等の定めを置いていなかったり、段階的な懲戒処分を経ずにいきなり解雇したりする企業は、特に中小企業に見られます。
しかし、このような対応は非常に危険です。
なぜなら、従業員の懲戒処分が違法とされた場合、企業は慰謝料の支払いを命じられるおそれがあるからです。
また、懲戒解雇の場合は、従業員の解雇が無効となり、未払賃金をまとめて支払う羽目になるかもしれません。
では、従業員に問題行為があった場合、企業はどのように対応すればよいのでしょうか。
懲戒処分とは
懲戒処分とは、使用者が従業員の企業秩序違反行為に対して課す制裁罰をいいます。
懲戒処分の種類は企業ごとにさまざまですが、典型的な処分としては、軽いものから順に、次のようなものがあります。
・戒告・けん責-労働者の将来を戒める処分
・減給-賃金を減額する処分。
・出勤停止-労働義務の履行を停止させる処分。
・降格-制裁目的で労働者の役職や職能資格を低下させる処分。
・諭旨解雇-労働者に退職を勧告し、本人の願い出による形で退職させる処分。
・懲戒解雇-懲戒処分としての解雇。
正しい対応
懲戒処分が有効とされるためには、
- 「客観的に合理的な理由」があること、
- 「社会通念上相当」と認められることが必要です(労働契約法15条、16条)。
①について、例えば重要な経歴詐称がある場合や、業務命令違反がある場合がこれにあたります。
②については、処分内容の相当性と手続の相当性が必要となります。
手続規定を定めている場合はその手続が履践されたかどうか、規定がない場合でも、弁明の機会を与えるなど、適正な手続がなされたかどうかが問題となります。
違法な懲戒処分
懲戒処分が違法とされた場合、企業による違法無効な懲戒処分が不法行為(民法709条)に該当するとして、労働者から損害賠償請求がなされることもあります。
例えば、兼業禁止の規定に違反し、無断欠勤したなどとして、停職6月の懲戒処分がなされた事案について、右処分が権利の濫用として無効であるとして、使用者である法人に対し慰謝料200万円の支払いを命じました(長崎地判平成23年11月30日)。
さらに、企業のみならず、取締役や上司等、違法無効な懲戒処分の手続に関与した個人への責任追及がなされるおそれもあります。
懲戒処分は慎重な対応が必要
懲戒処分は従業員に不利益をもたらすものであるため、トラブルが起きる可能性が高まります。
企業としては、後に争われた場合のリスクも考慮した上で、慎重に対応することが重要です。
トラブルになる前に、懲戒処分の内容や方法について、労務に強い弁護士に相談しておくことをおすすめします。