企業による採用内定取消――陥りがちな対応と正しい解決法・予防法
最終更新日 2024年8月28日
内定通知後に、経営が苦しくなってきた。
思っていたよりも内定辞退者が少なかった。
このような場合、企業側の頭をよぎるのが、採用内定取消です。
一度出した内定を取り消すことについて、どのような法的問題が存在するのでしょうか。
りがちな対応
まだ採用前だし、内定を取り消しても問題はないだろう・・・。
企業側は、このように内定取り消しを安易に考えがちです。
しかし、内定取消は非常にリスクが伴う行為です。
なぜなら、内定通知によって入社予定日を始期とした労働契約(解約権留保付労働契約)が成立したものと判断される場合があるためです。
この場合、内定取消は解約権の行使となるため、その行使が権利濫用にあたると判断されると、内定者から、労働者としての地位保全や賃金の仮払い、慰謝料請求がなされるおそれがあります。
たとえば、内定者がグルーミーな(暗い)印象であることなどを理由として内定取消をした事例では、労働契約上の地位確認、賃金支払請求とともに100万円の慰謝料請求が認められています(大阪高判昭和51年10月4日)。
正しい解決法・予防法
内定取消は、客観的に合理的かつ社会通念上相当な理由がある場合に限られるとされています。
たとえば、成績不良による卒業の延期や、虚偽申告が判明した場合、など、内定者側に落ち度がある場合は、客観的に合理的かつ社会通念上相当な理由があると認められやすいでしょう。
一方、企業側の経営悪化を理由とする内定取消については、企業側が経営悪化を予見できなかった点で責任があるとされるため、客観的に合理的かつ社会通念上相当な理由があると認められにくい傾向にあります。
たとえば、内定通知後に、会社の経営・人事計画に重大な影響を与えるほどの緊急事態があったような場合には、右理由があるものと認められやすいでしょう。
さらに、経営悪化を理由とする内定取消は、整理解雇規制に準じた取扱いがなされます。したがって、
- 内定取消の必要性があるか
- 内定取消を回避するために努力を尽くしたか
- 人選の合理性
- 手続の妥当性
などの厳しい要件を満たす必要があるのです。
このように、内定取消が認められるケースは限定的ですので、安易な判断は避けるべきです。
やむを得ない事情により内定取消を行う場合には、内定者に対する採用内定取消通知書や説明会などで、取消理由を真摯に説明した上で、理解と合意を得られるよう心掛けることが大切です。
具体的な対応については、労務に強い弁護士にご相談されることをおすすめします。