労務トラブル例「固定残業代について泥沼化!未払賃金請求訴訟」
最終更新日 2024年8月28日
Y社は、動物の診療施設の経営、ペット専用ホテルの経営等を目的とする株式会社で、4つの病院を有しています。
Y社の就業規則には、6か月の試用期間が設けられており、試用期間中に、上司の指示に従わない、勤務態度が不良の場合、必要な教育を施しても改善の見込みが薄い場合、従業員としてふさわしくない場合など、本採用が不適当と認められる場合は、本採用を拒否して解雇できることになっていました。
また、賃金規程には、獣医師の基本給は、75時間分の時間外勤務手当と30時間の深夜手当分を含むとされ、計算式も規定されていました。
Xは、Y社に獣医師として入社し、就労条件は、勤務時間が午前8時30分から午後8時30分までとやや長めですが、休日は週2日あり、賃金は月30万円でした。
しかし、残念なことに、Yは、Xが、院内で実施する学科試験の成績が悪いこと、診療内容に多くの問題があること、カルテの記載に不備が多いこと、診療件数・再診件数が少ないこと、同僚との協調性が乏しいこと、院内の勉強会への参加を拒否したことなどを理由として、試用期間満了をもってXを解雇しました。
すると、Xは、Y社を被告として、従業員としての地位確認、解雇後の賃金の支払、勤務時間中における時間外割増賃金等と付加金の支払、慰謝料の支払を求め提訴しました。
主な争点は、
①固定残業代規定について、基本給に時間外・深夜手当が含まれるかどうか、
②解雇が認められるか、
でした。
①(基本給に時間外・深夜手当が含まれるか)については、かつての最高裁裁判例が、通常の労働時間の賃金と時間外・深夜の割増賃金とが区別できる必要がある、としており、Y社は、この点は大丈夫でした。
ところが、裁判所は、75時間分の時間外手当が2割5分増しの割増賃金のみと対象とするのか、3割5分増しの休日時間外の割増賃金も含むのかはっきりしないので、最高裁裁判例の趣旨を満たさないとして、基本給全体をもとに割増賃金を計算して割増賃金47万円の支払を命じ、さらに、同額の47万円の付加金の支払いを命じました。
また、②については、試用期間中の解雇なので、通常よりも解雇の裁量が広いとしつつも、Xが獣医師として能力不足とまではいえないこと、患畜が多い土日に勤務しておらず勤務場所の移動もあったので診療件数・再診件数を基準として能力を判断するのは酷であること、出席について明確な業務指示のない勉強会への出席状況を考慮するべきでないこと、協調性の欠如については具体的でないことなどから、解雇は、合理的理由があり相当であるとはいえないとして、無効と判断し、Y社に対し、解雇後の賃金として月額30万円の支払を命じました。
Y社としては、固定残業代規定や試用期間をもうけ、Xの能力不足を理由として試用期間中にXを解雇したにもかかわらず、解雇前の割増賃金や付加金の支払、解雇後の賃金支払いが命じられ、そのショックは計り知れません・・